白九谷―その価値を示すもの―
近年、絵付九谷のほか、白九谷を皆さんに受け入れていただけるようになりました。白九谷とは、絵付を施されていない、九谷焼産地で採った花坂陶石から作られています。白九谷の「白」は、天草陶石のような透明感のある白ではなく、花坂陶石による青みがかかった白さが特徴です。我々窯元はそれを用いて成形をしておりますが、近年において花坂陶石を採石できる場所は限られてきており、だんだん貴重になってきています。
弊窯に来られる皆さんは、絵付用「白地」を求める方(作家や地域問屋等)のほか、伝統工芸とその工芸品に興味のある方(地元の方や観光客等)がいます。絵付用の白地は、作家や地域(絵付)問屋がそれを仕入れして上絵を施し(手描き・転写)、所謂絵付(五彩)九谷を仕上げます。その一つ一つの作品の裏に必ずその作家や絵付問屋の「落款/サイン」があります。この「落款/サイン」は、ただ作品の作者を示すだけでなく、作者が作品の作成に責任を持つという意味をも含まれていることから、作品の価値を高め、鑑賞者に作品への信頼感を与える役割も担っています。これを踏まえ、弊窯の「白九谷」の器も同様に製造責任を持つべく、正真正銘の九谷焼であることを示すため、裏に落款をしております。この落款があることに、器の価値を示すことができると考えています。
ただ、この2、3年の間、落款のない絵付け素地の白地が市場に現われ、弊窯の器もその中にあります。よく拝見すると、裏印等の落款がされていませんので、弊窯の絵付用白地であったことが分かります。この絵付用白地は、加工されることを前提として納品していますが、何の加工もせずに流すのみで売られていることには疑問を感じています。それを知った製造にかかわっている職人達も寂しい思いをしております。弊窯側にもそのような状態になってしまった落ち度があり、白九谷と言われ、愛用してくださっている皆さんのために、きちんと器の価値を上げる努力が必要だと痛感しています。弊窯の白磁は、ただの食器ではなく、職人一人ひとりが心を込めて作り上げた産地の宝です。その宝が次世代、もしくはその次の次世代に渡るときに良いものだと胸を張って言えるように、「器の形・器の表情・器の落款」を味わえる三位一体の追求と精進を重ねて参りたいと思います。
tocowa より